1.黄泉国基地探訪
帰路、オマールの船内は、誘導飛行中のため、
しばしおしゃべりに弾んでいた。
カレン:「じゃあ、ネアン君もティシュも、
それで納得したんだな。だったら、私としては、何も言うことはない。
ジーゼット星には、嘘を言う形になったが、
彼らがどう詮索できることでもない。
私としても良かったと思う」
2人だけで取り決めたことは、ティシュの父、カレンにとっても
朗報であったに違いない。
彼の憂鬱そうだった表情に、柔らかさが見えた。
オマール:「しかし、不思議なものだなあ。
ネアンの資質が問題なしになるんだから」
ベンザ:「そうね。行きがけにあれほど騒いでたのが嘘みたい」
私:「ロアーさんが何とかしてくれたんでしょう」
オマール:「彼には、そこまでやるだけの力はないさ」
ティシュ:「ネアンが変身したのかな」
ティシュは、そう言うと、おどけたふりをして、片手だけで私を押した。
私は、あえなく座席から転がり落ちたので、
笑いが巻き起こった。
こんなこと習慣にされたら、かなわないなあ。
私:「僕がいっぺんに変身するわけないでしょ。
以前よりスリムになったぐらいです」
みんなが笑う中、カレンだけが真面目な表情で、私を見ている。
カレン:「どうやら、ネアン君を上げ潮に乗せるような
時空の流れに変化してきているようだな。
出航前に、ロアー君に時空ジャンプの依頼をしたときも、
既に処理してあると言っていた。
つまり、何もかも、できているというわけだ」
オマール:「つまり、我々が巻き込まれていると言うんですか?」
カレン:「あり得るな」
ティシュ:「何を言うの、パパ。それは、
地球調査という面倒な問題を引き受けてしまったから、
やっかみを言っているだけなのよ。
ネアン、気にすることないよ」
ベンザ:「そうだわ。昨日のディナーのお開きの後で、
パパったら、何を言ってたと思う?
サテュロス星にとっては、歴史なんかどうでも良いんだがなあ、だって。
そんなことで、ジーゼット星の人たちに、顔向け出来るの?」
カレン:「分かったよ。分かった。お前達にはとてもかなわん」
オマール:「だがみんな、パパが逃げ腰になるのも、
当然と言えば当然なんだ。
下手したら、グリー星と戦争が起きるかも知れないんだから。
たかが地球のことで、宇宙に混乱が生じるなんてこと、
本来あってはならないんだ」
ティシュ:「たかが地球?
ひどいわ。それじゃあ、ネアンの星は、どうでも良いの?」
オマール:「そうじゃなくて、
地球には地球の未来に関する自己責任があるということ。
宇宙には宇宙だけで解決すべき自己責任があるということ。
もし、星間戦争にでもなれば、地球だって戦渦に巻き込まれるだろう。
だから、できることなら何もしないほうがいいんだよ。
連邦代表だって、その点を心配しているんだ」
ティシュ:「でも、そんな風に聞こえなかったな」
オマール:「もう参ったよ。パパ、何とか言ってやって」
カレン:「私は、ノーコメントだ」
私としては、地球が確かに病んでいる現状があるゆえに、
連邦、いやそれでなくとも1星でも良いから、
先進科学によって打開してもらいたいのだが、
それも戦渦と引き替えにしなくてはならないなら・・。
私は、何も話し出せなかった。
話題を変えたくも思ったが、それ以外に
何も思い浮かばないので、沈黙しているしかなかった。
だが、先進星であるグリー星が地球に居座る?
それについては、連邦警察のオマールすらわけを知らない。
ただ一つ言えることは、グリー星が、地球の未来に対して、
何の希望を与えていないという現実・・。
いや、もしかしたら、今の爆発的な科学技術の進歩に、
何か入れ知恵でもしているのだろうか?・・。
女性軍だけ、おしゃべりをしていたが、
男性軍には沈黙の時が流れた。
やがて地球が画面に現れて、いよいよ接近というとき、
カレンがぽつりとこう言った。
カレン:「ネアン君。私は君をキーパースンと睨んでいる。
我々は、ここで君を下ろしてサテュロスに帰るが、
やがて私の星からも科学者が来る。よろしく頼んだよ」
私:「はい」
やがて、日本が見えてきて、
私の住居地がみるみるクローズアップされてきた。
と、その時だ。オマールが、何か異常に気が付いた。
オマール:「あれ?ジーゼットの科学船が離れていく」
画面の右横に黄色の光が点滅し、
下隅に映されていた後続の船が、いつの間にか姿を消していた。
その時、突然画面が変わって、カエルさんの顔が現れた。
どこかで見たことがある。
接待大臣:「大変だ。船がコントロールを失った。何とかならんだろうか」
何と、ケロピー接待大臣ではないか。
彼がやって来る予定は、なかったはずなのに、なぜ?
その向こうには、操縦士カエルが必死で
ボタン操作している様子が映っており、
その横では、3名の白衣の科学者カエルが、おろおろしていた。
カレン:「おや、これはケロピーさんじゃないか。
オマール、何か手だてはないのか」
オマール:「宇宙船に何か起きたようだよ。
あ、そうか。彼らの船には直結装置が無く、
ノイズに対して無防備なんだよ」
カレン:「そんな船で、地球などに来ちゃいかん」
ジーゼット星人の旅先は、平和な連邦加入星のみであったため、
宇宙船にはおよそ、大人しい蝸牛の魂が起用されており、
悪いことに船魂の意識を切り離す装置(直結装置)すら付いてなかった。
このため、船魂が地球の荒々しくイレギュラーな
想念波動を受けたことで錯乱し、制御不能に陥ったらしい。
オマール:「とにかく、連邦のレスキュー隊を呼ぶしかない。
ケロピーさん。操縦をマニュアルにして、
重力装置をマイナスに作動させて、空中に滞空し続けて下さい」
接待大臣:「分かった。マニュアルにして、重力装置をマイナスだな」
画面は、接待大臣が操縦士に言いつけている光景を映していた。
オマールは、別画面を直ちに起動して、レスキュー隊に連絡を取った。
オマール:「パパ。僕らも追尾するよ」
カレン:「ああ、そうだな」
オマール:「彼らの船は、全方向に揺れながら、等速飛行している。
地形に高さがあったら、衝突しかねない」
大変なことになったものだ。今度は、女性軍が押し黙ってしまった。
カレン:「レスキューが来るまでの時間は?」
オマール:「(10分)ほどだよ」
カレン:「その程度なら、何とかならないか?」
オマール:「海上を飛んでいるからしばらくは良いけど、
このままでは陸上に(9分)で入ってしまう。
しかもそこはA大陸で、グリーのテリトリーだよ。
大変だ。連邦軍にも連絡だ」
こうしてオマールは、連邦軍にも至急伝を入れた。
既に基地を同時くらいに出発しているので、
もしかしたらレスキュー隊より早いかも知れないという。
だが、牽引救助の装備はない。
とすれば、ガードすることしかないが、
戦闘行為なしに済ますことが出来るだろうか。
ところが、大陸への侵入を待たず、洋上を行くジーゼット船の前に、
待ち受けたかのように、グリーの宇宙船が立ちはだかった。
あるものは海中から、あるものは大陸からやって来て、
総数20機ほどとなった。
オマール:「こちらは連邦警察。
前方1機は、連邦の重要客人につき、
手出しあらば、連邦軍が反撃するだろう」
グリー軍機:「機体はこちらで確保した。
出方次第では撃墜もやむを得ない」
オマール:「こちらとしては、拘束を解いてくれるだけでよい。
レスキューが近くに来ている」
グリー軍機:「大陸上空に連邦機を立ち入らせるわけにはいかない。
連邦軍機を3機、レスキュー機2機を確認したが、
いつでも攻撃できる態勢にある。
それに君たちはすでに包囲された。今や虜の状態にある」
オマール:「我々をどうするつもりだ」
グリー軍機:「そのまま基地まで曳航する。連邦機も付いてくるように」
オマール:「仕方ない」
オマールは、連邦軍との連絡に入った。
オマール:「こちらオマール。連邦軍ですか」
連邦軍機:「今、海上にあって、包囲の状況を確認しています」
オマール:「手出しは無用です。
グリーの基地に曳航されることになりました。
連邦にその旨伝えて下さい」
連邦軍機:「了解」
やがて、ジーゼット星の船が3機のグリー船に囲まれて、
盆地に開いた巨大な穴に降りていった。
それに続こうとしていたとき、画面に別の連絡が入ってきた。
アダムスキー:「オマール君。アダムスキーだ。
私はこれから、交渉に向かうことにする」
その時、画像は乱れ、基地の誘導圏内に入ったことを告げていた。
地下基地の中は非常に広く、先に着陸したジーゼット星の船からは、
すでに科学者達がタラップを下りているところだった。
カレン:「どれ、我々も覚悟してかからねばな」
オマール:「パパ。身分を明かす必要はないよ」
カレン:「そうはいかん。我々は偽りがあってはならない。
だが、不思議な成り行きと言えるな。
まっしぐらに運命の標的に向かっているような気さえするよ」
と、カレンは私を一瞥した。
船は基地に着地した。扉が開くと、
下ではグリー人が武器を持って取り巻いていた。
カレン:「では行くか」
ベンザ:「私たち、どうなるの?」
オマール:「心配ない。我々に手出ししたら、
大変なことになるくらいは、彼らも分かっているはずだ」
私たちは、蛍光灯の照らす薄暗い基地の通路をしばらく歩いた。
グリー人が前と後ろにそれぞれ5人ずつ歩いていた。
そして、間口4Mほどのエレベーターに乗って、
地下深くまで降りて停まった。
扉が開くと、そこにはT国軍の将校らしい者たちが3人居て、
周りを兵隊6,7人ほどが武器を持って控えていた。
皆それぞれの顔に、驚きの色が見えていた。それはそうだろう。
将校の一人が、身振りで私たちの行き先を示した。
その時、私の存在に気付いた別の将校が、
「T国語はしゃべれるか」と聞いてきた。
私は、緊張していたこともあり、応答しなかった。
しゃべれなくとも、翻訳機がある。それが彼らには分かっていない。
それがうまく利用できないかと、スパイ映画のようなことを考えたが、
何もかもカレンが話してしまった。
カレン:「身振りや通訳など、何も必要ない。
君らの言葉は、みんな分かるし、話すこともできる」
将校:「そ、そうか。では、こちらに来てもらおう」
奇妙なタンクが立ち並び、異臭の漂うところを過ぎた。
タンクといっても、ガラス製のものもあって中が覗け、
異様な肉片らしきものが、泡だった黄色い液体の中で
浮遊しているのが分かった。決して衛生的な場所ではない。
工場らしい様々な騒音の中に、時折混じる金切り声のような音があって、
どこか地獄の入り口にでも至ったような気分になった。
まるで、私たちは、獄卒に追い立てられているかのようだった。
やがて独立した一つの大きめの部屋の前にやってきた。
将校:「この中で、しばらく居るように」
鉄の扉の部屋にはいると、そこには接待大臣と
ジーゼット星科学者ら併せて5人が居た。
接待大臣:「おお、何てことだ。カレンさん、まさかこんなことになろうとは」
カレン:「私だって、まさかという気分だが、ま、
これも成り行きだ。どうなるかは、運命にゆだねるしかない」
接待大臣:「おお、ベンザさん。
君たちもとんだ目に遭ってしまったね。
ネアン君。ここはいったい何なのかね」
私:「僕にもよく分かりません」
接待大臣:「地球だろ?」
私:「そうですが、かなり異様です」
接待大臣:「はは、そうだろうな。
何となく我々の工場に似ているよ。生活域ではない。
しかも、ここの人間たちは何かに物凄く怯えていたな。
こんなことはいつもなのか?」
私:「それは、全く見たことないような皆さんを見たからでしょう」
接待大臣:「君は私に、カエルに似ていると言ったじゃないか」
私:「それはそうですが、ここのカエルはこんなに小さくて。
それにサテュロスの人は、地球のイグアナトカゲに似ているんですが、
サイズはこんなもんです」
私は両手で大きさを作って見せた。
接待大臣:「サイズがそれほど違えば、確かに驚くだろうな」
カレン:「私らの同類も存在しているわけか。
となれば、これまた重大なことだ」
部屋の中は殺風景で、テーブルが乱雑に置かれ、
椅子もあちこちに散乱していた。
空調の音だけが騒々しく響いていたが、
それでも空気は淀んでいた。
私:「あのう。さっき、交渉に向かうと言っていた
アダムスキーさんというのは、連邦のどういう仕事をしているんですか」
オマール:「彼は情報省の政務次官だ。
交渉ごとについて連邦を代表して行うことも多いんだ」
その時、鉄の扉にノック音がした。
扉が開き、入ってきたのは、噂したてのアダムスキーはじめ、
グリー星人やT国の高官らしい人物併せて10名ほどだった。
その中のスーツ姿の3人が、テーブルや椅子を4角く揃え始めた。
ガバナー補佐:「私はプロジェクトガバナーを補佐する者です。
皆さん、椅子に掛けて下さい。
言葉がお分かりになるということで、
お互い親しみを持った話が交わせるというものです」
こうして、私たちは、殺風景な環境下とはいえ、長時間の話を持った。
話の初めは、なぜ地球にサテュロス星、ジーゼット星の
面々がやってきたのかの事情聴取となった。
これについては、素直に包まず理由を話したのだが、
懐疑心をたえず持って聞いていたのは、T国人だった。
それは話し合いの当事者双方の大きな違いを示していた。
グリーが、宇宙連邦側が嘘を言わないことを
分かっていながら、T国人に教えていないのか、
それともわざと懐疑派の振りをしているのか。しだいに、
私たちを威圧するような横柄さが目立ってきた。
ガバナー補佐:「ほほー。ルーツを探りに来られたとは。
しかし、この星に、あなた方のルーツを示すような痕跡はありませんよ。
いったい誰がそのようなことを」
私:「それは僕です。
僕は、外見上のことしか言えませんけど、
地球のカエルやトカゲにこの人達の面影を見る想いがしています。
あなたたちも、そう思うでしょ」
ガバナー補佐:「これはまた大変なことを。
ただ似ているからと言って、あのような下等動物と、
こちらの理性を備えた方たちと一緒にしては、失礼なんじゃないかな。
君は、確かに外見でしか類推しないところがある。知性を疑うね」
私:「僕には確信があるんです」
ガバナー補佐:「そうか、そうか。ならばこうしよう。
皆さんにしっかり納得してもらうために、
一度皆さんの身体検査をさせてもらって、
実際に地球上の下等動物との違いをはっきりさせて、
後でお知らせすることにしよう」
接待大臣:「待ってくれ賜え。それにはおよばんよ。
あなたは嘘をついているね。
カエルと私が似ていることにびっくりしながら、
空々しいことを言っている」
ガバナー補佐:「これはまたどうしてそんなことが?」
私:「この方には、あなたの心理が読めるんですよ」
ガバナー補佐:「なに?・・これは飛んだお笑い草だ。
そんな者がいったいどこにいる?
そんなことを言うのは、およそペテン師と相場が決まっている。
あなたは大臣だと言われたが、それも怪しいもんだな」
接待大臣:「そう言いながら、心の中では、
怖くて怯えてるんじゃないのかね。全て丸見えだよ」
ガバナー補佐:「う・・」
アダムスキー:「まあ、ここはお互いの特質が少し
理解できたということで、先へ進みましょう。
先ほどお話ししたように、宇宙連邦としては、
地球への干渉は今後も差し控えるつもりです。
ただ、純学術的立場から、ルーツを求める必要があり、
ここでしばらくの間、研究を認めていただきたいというわけです。
それについては、すでにグリー側に申し入れをして、
条件付きながら許可を得ております」
グリーの代表は、小さく頷いた。
ガバナー補佐:「だが、国境を侵犯してきたことは確かだ。
それについて、我が国は何の許可も与えていない」
アダムスキー:「事故が起きたことはすでに申したとおりです。
それは、彼らの準備が整っていなかったことによるミスです。
ちょうど都会のまん中に、未開の地から
裸の女性が迷い込んできたようなもの」
ガバナー補佐:「なるほど。
そういうことなら、このオオカミの徘徊する町では、
どんな事故が起きても仕方がない。
だが、事故というなら、救難信号を出して欲しかったな」
アダムスキー:「いや、宇宙規約に基づくなら、
あの飛行状態を呈しているときには、故障があったものとみなし、
同じ管制システムを持つなら、警報として認知されているはずです。
それは、あなた方の管制システムではなく、グリーの側に
認知されていただろうということです。如何ですか?グリー代表」
中央のグリー:「その通り」
アダムスキー:「その場合は、連邦の内外を問わず、
救助するという約束になっています」
中央のグリー:「その通り」
ガバナー補佐:「そうだろう。その結果、
君たちは無傷でここに来ているんだ。だが、それからは、
我々の采配に従っていただかねばならないということじゃないのかね」
アダムスキー:「しかし、ジーゼットもサテュロスも、
早急に学術調査を終えて帰路に就きたいわけです。
それをここで足止めされたのでは、連邦もこの活動を
支援していることですし、何かと問題が生じてきます。
また、もし彼らが身体検査などをされるようなことになれば、
星間問題にも発展しかねません。
それは地球にとっても極めて困難な事態となるでしょう。
できるなら、あなた方がむしろ調査に協力するぐらいであって
欲しいのです。単なる言葉のまやかしではなく、納得のいく協力を」
ガバナー補佐:「うーむ。少し待っていただこう」
ガバナー補佐と名乗る人物は、扉を開けて退室した。
その間、3人のグリー人が交渉の相手になるはずだが、
何とも彼らは大人しい。
オマール:「グリー代表、ひとつ伺いますが、
あなた方は地球人とどういう関係なのですか?」
中央のグリー:「答えられない」
接待大臣:「君たちは地球人に何を教えているんだ」
オマール:「なぜ、連邦を離脱するようなことになったのですか?」
カレン:「地球で何をしているのか」
など、様々な質問が浴びせられたが、
ことごとく「答えられない」の一点張りだった。
私も質問を試みた。
私:「牛などの動物が体の一部や血液を採られて
死んでいますが、あなた方がしているのですか。
したかしないかで応えてください」
中央のグリー:「・・・」
私:「だめですか。じゃあ、僕の推測を言いますけど、
あなた方は、それで遺伝子実験をやっているんじゃないんですか。
何かの新生物を作り出そうとしているとか」
中央のグリー:「・・・」
私:「これもだめ?あの、どうです。彼らに感情の変化などは」
とうとう私は、タカをくくって、隣の接待大臣に耳打ちした。
接待大臣:「彼らには、あまり感情が無いみたいだ。
心を閉ざし、何かを一途に思っている者に似ている」
アダムスキー:「それはそうだろう。彼らは蟻の種族の進化したものだ」
私:「なぜ分かるんですか?」
アダムスキー:「今でこそ出入りできないが、
彼らが連邦の一員だった頃は、私もよく行き来し、
巨大な女王様にも、会ってきたりしたからね。
それに、遺伝子実験というのはなかなかいい線だ。
彼ら自身、種族を哺乳類、爬虫類、両生類などに分化させてきている」
カレン:「蟻とは何かね?」
私:「この地球にいる生物で、昆虫という種類です。
非常に整った社会形態をしています」
カレン:「なに?彼らのルーツもここだというのか。
だったら、この地球にこだわるわけだな」
接待大臣:「君たち、実際にそうなのかね?
だったら、どうだろう。
我々のルーツも、どうやらここかも知れないんだ。
お互いに共通の故郷ということになるじゃないか」
私:「今、地球の生態系は、
環境の悪化によって、大変な危機に瀕しています。
その原因を作った人間すら困り始めています。
しかし、それが分かっていながら、
原因を改めていくことができないでいるのも人間です。
人間の故郷もここ地球。
もし、みんなの共通の故郷がこの地球であるならば・・」
接待大臣:「この地球が、
良い星であって欲しいと願わざるを得ないだろうね」
その時、グリーの一人が目から涙をこぼしたようだった。
接待大臣:「お・・」
接待大臣が、グリーの上に感情の変化を読みとったようだった。
接待大臣:「私は、カエルをこの目で見てみたい。
この私にとても似ているらしいんだ。
サイズはこれぐらいらしいが、とてもいとおしく思えてくる」
接待大臣が畳みかけるようにそう言うと、
右端のグリーが、そわそわし始めた。
接待大臣は、面白そうにその様子に見入った。
カレン:「私だってそうだ。
イグアナとかいう種族を見てみたい。
どんな生活をしているか、知りたいよ。
だって、我々の先祖かも知れないんだ」
ベンザ:「そうよ。私もお願いしたいわ」
そうだ。そうだと、科学者や操縦士なども、皆が口々に言い始めた。
すると、まん中のグリーがようやく口を開いた。
中央のグリー:「分かりました。
あなた方に私心がないことが我々にも理解できました。
調査のこと、地球政府に働きかけましょう」
ベンザ:「わー。良かった」
ん?地球政府と言ったよな。私は、聞き間違えたかと思った。
そこに、ガバナー補佐が戻ってきた。
ガバナー補佐:「上層部と協議した結果、
条件付きで調査を認めることにした。
許可の条件は、調査に際し我々の指定する者を立ち会わせることと、
連邦に内政不干渉と相互不可侵を約束してもらうことだ。
我々の地球は、地球政府が管理掌握している。
それに対して宇宙連邦が、今後如何なる干渉もしないことを
しっかり約束してもらうことが重要だ」
アダムスキー:「不干渉は今まで通りでおりましょう。
学術調査だけは許可願いますよ」
ガバナー補佐:「では、条約の約定書に調印を願おう。
書記官。書類を・・」
地球政府?いつからそんな風になったのか、聞きたく思ったが、
せっかくの雰囲気を壊すのも気が引けた。
とにかく、調査が進めば、様々な地球の環境問題も知れるに違いない。
その時、各星の圧力にあって、連邦も動いてくれるだろう。
だが、待てよ??
地球政府と言ったが、それがどうあれ、今の世界には
環境問題に取り組む姿勢などほとんど見られていない状況だ。
その緩徐な過程では、すでに逼迫している眼下の環境悪化に対して、
どれほどの改善も期待できないのではないか。
また、よくありがちな詐欺的な手として、
いつの日か「地球政府?そんな団体は存在しないよ」などと、
約束それ自体を反古にする場合などないだろうか。
何か、多くの欺瞞の中に、地球の未来ばかりか
多くの星の期待さえも塩漬けにされようとしている感じがして、
私は無性に腹立たしくなってきた。
その怒気を察したか、接待大臣が、
接待大臣:「ネアン君。どうした。
またあのときの掴みかかるような雰囲気が出ているぞ」
そう言われてしまったら身も蓋もない、
ではなく、身から蓋を取らざるを得ない。
私:「ええ。そうです。ちょっと皆さん。聞いて・・」
アダムスキー:「ネアン。やめるんだ」
私:「いいえ。やめません。
地球政府とは何ですか?
地球上には、今、百カ国以上あり、
互いに主権を主張し合っていて、
地球政府など、どこにもありませんよ」
ガバナー補佐:「何を言っている。君は東洋人のようだな」
私:「その通りです」
ガバナー補佐:「そうか。だったら、教えてやろう。
我々は、過去の大戦や冷戦の終了を経て、
地球を代表する政府となった。
現状は分裂しているように見える諸国も、
様々な試練を経て統一されることになっている。
現在、我々に立ち向かえる国はなく、
また騒乱の抑止力を持つのは、我々しかいないのだ。
頭上に脅威がある以上、
我々には地球を代表して防衛する責務がある。
もし頭上に何もないならば、
我々は今ある分裂した諸国の状態に異議を唱えない。
だが事態は、そうではないのだ。
世界はまとまって、頭上の脅威に
対抗するだけの力を持たねばならない。
もし君が地球人なら、少しは愛国精神を
持って欲しいものだな」
私:「そんな要求には従えない。
あなたの愛国精神とは、地球の生態系を破壊することなのか?
生態系の破壊は、カエルの種族も、トカゲの種族も、
人類さえも蝕んで、やがて滅ぼしてしまう。
今まで、どれほどの種が絶滅していったか知っているはずだ。
下等動物ゆえに、構わないというなら、それはあなたのおごりだ。
地球上の有りとあらゆる所に、毒物をまき散らし、
止めどない乱開発と、貪欲な利益競争の渦を巻き起こしておいて、
事態を収拾する意志も持っていないとは。
そんなところに、地球の経営など任せておけるか。
本当の愛国精神とは、地球を丸ごと慈しむ心だろ。オタンコナス!!」
私が言い終わらぬうちに、額に青筋を立てた
ガバナー補佐が右手を挙げ、それと同時に
ボディガード3人が、一斉に銃口をこちらに向けた。
⇒2.倪夢の終焉