物語 |
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作/森野奥人
あれは私が自宅裏のはげ山に別館を建てようとしたことから始まった。 普通であれば山の麓に建てるのだろうが、妙なこだわりがあって、 山の天辺付近を切土して、頂上を築山として残した形で広場を造成し、 その上に建てようとしたことから、奇妙な人々の関心を引き、 交流が始まったのだ。
ある日、猛烈な振動で目を覚ました。 大地震でも起きたかと疑ったが、そうではなかった。 窓の外から眩しい光が射しており、車のヘッドライト?、 車に突っ込まれたか?、いやこの方向には木立があって 道路などないはずだ、などと不安に駆られながら窓を開けた。
だが、普通の暗闇がそこにあって、しんしんとしていた。 いったい何なんだ? ベランダに出て周囲を見回したが、何ということはない。
夢でも見ていたのかと、部屋に戻ろうとしたが、 念のためふと空を見上げて驚いた。
突然、黄金色のシンバル状の”空とぶ円盤”が二機、 頭上五〇メートル程を連続的に滑空していったのだ。 私は「ああーあー」と唸りながら、 ベランダの端まで出て、目で空を追った。
すると、まもなくその二機は、私の存在を認めたかのように、 音もなくすっと戻ってきて、私の頭上に滞空した。
私は、根が落ち着いているのか鈍感なのか、恐いというより、 半ば呆れて口をあんぐり開けて見上げていた。
次の瞬間、橙色の光の柱が私に覆い被さってきて、 私はまったく身動きとれなくなっていた。
気を失っていたと見え、いつのまにか私は自分の部屋にいて、 万年掛け布団の架かった電気こたつの一方に座っており、 左右の二方にシルクハットに裏地が赤の黒マントをはおった ダークスーツ姿の外国人風の二人が座っているのを見た。
スーツA(左側の男):「気が付かれたようですね。 突然おたずねしたのは他でもありません。 我々は貴殿が今建築を計画なさっている建物に 非常に興味を持っております。 それは、我々のこうあってほしいという理想に近いのです。 ぜひ、我々の希望を若干入れて設計いただきたい。 外観上、さほど変更は伴いませんので」
「はあ」
右側にいた男が、さあっと図面を広げてみせた。 意外や、それは私が作ったもののようだった。
「これだったら、私が作ろうとする・・」
その言葉をさえぎるように左側の男が、 マントをしゃくり上げ、その下から手を図面の上へ置いた。
スーツA:「ただひとつだけ違うのは、ここに屋根を設けず、 露天の中庭にしていただきたいのです」
そもそも、真ん中に大きな部屋をとり、周囲を回廊で囲い、 門のある一稜だけに賄い場、風呂、厠など 生活に必要な場所を集めた構造であった。
しかし、部屋をとってしまうと、建物部分など まるでとって付けたようになり、居住できるかどうかも怪しくなる。 大きな違いもいいとこだ。
「もしそうするなら、別棟を作らねば・・・」
スーツA:「いや、それでは困るのです。 この構造から、何かを足しても、何を引いても駄目なんです。 こうお願いするというのも、貴殿を見込んでのことであって、 我々上空を旅する者達のオアシスとしていただきたいのです。 いやこれは、すでに我々ばかりか、 多くの者達の期待が掛かっているのです」
スーツB:「というのも、このような極めて奇抜な館というのは、 ここ千何百年もの間見当らず、我々は地球人類との 極めて少なくなった交流の場をも失ってしまったのです。 多くのことを話し合い、情報を交換しあうという、 極めて当たり前のことが、この地球では難しくなっています」
「はあ?」
途方もない話に唖然とするあまり、私は再び口を開けたままになった。
スーツA:「でもどうして私が、とおっしゃるのでしょう。 そのわけは、貴殿が色々と建物の位置ぎめやデザインの構想を 立てておられることを、我々は想念観測して理解しておりまして、 望みを抱いたのです。どうして中庭が要るのかって? それは、中庭が我々の地上に下りるための適度なスペースになるのです」
「はあ」
スーツB:「これは極めていい話ですよ。貴殿にとっても、宇宙という 極めて魅力ある世界と関係を持つことができるんですからね。 広い見聞が、極めて短時日のうちにはかれるようになりますよ」
「はあ」
私はついぞ声を洩らしたとたん、心ならずもよだれを出してしまった。 変な光線を浴びた後遺症だろうか、 おかしなことに顔の筋肉がうまく働かないのだ。
スーツB:「そう。極めておいしい話なんです」
やめてくれよ。なんでこうなるんだ?
その時、自室の外で、近付いてくる足音があった。 すかさず右の男が、私の両頬の肉を摘み、笑い顔を作ってみせたのだった。 襖がすっと開き、私の母がおぼんにお茶を三つ載せて笑顔で現われた。
「何もありませんけど、ごゆっくり」 そう言うと、母は目の前のこたつ台の上にお茶を置いて、 襖を閉めて出ていった。
こんな深夜に起きている母でもなかったのだが、 おそらく私と同じ状況にあったに違いない。 たしかに、後になって当夜こんなことが有ったかと聞いてみても、 知らんと言っていた。
スーツA:「では、話は決まりましたな」
「ホ?」
笑い顔はあのまま崩せていなかった。 こうして、私はやむなく彼らの要望をいれて 館を作ることになってしまったのだった。
さてそれからである。 完成後十日たっても、誰も来ない。 はじめは中庭も風流で悪くはないと思ったが、 そこで食事をするには、青天井でおかしく、 雨でも降ればたいへんである。
そこで、カーポート用の天蓋をこしらえたのだ。 するとその二日後に、天蓋は木っ端微塵になっていた。
これはひどいじゃないか。 言われた通りにしたのに、誰も来ない。 だったら、こっちの勝手にさせてくれてもいいじゃないか と、ぶつぶつ言っていたその時、 一陣の突風が吹いたかと思うと、 橙色の光の管が降りてきた。
いきなりそこからスーツAが出てきてこう言った。
「〇月〇日に館の完成祝賀会を開いてください。 それがお披露目になります。 すでに当日、会を執り行うことは皆に話してありますから」
「はあ? それはまたいきなり、ムチャクチャ(でござりまするが)な」
五十坪の中庭には、何のもてなしの設備はおろか、 庭木一本生えていないのだ。私は中庭を見やった。
「いや、心配ご無用。何もいらんのです。場所だけあれば大丈夫。 当日ここには何も置かずに、貴殿だけここにいてください」 というや、またあの光の管に入り、去っていってしまった。
何だ、近くにいたのなら早く来てくれりゃいいじゃないか。 天蓋代、損しちまった。 〇月〇日? ああ、これは仕事の日だよ。 休まにゃならんがな。
こうしてその当日、風邪引きを理由に休暇をとって、 朝から山上の館で待っていた。
昼がすぎ、夕方になり、腹も減ったのでとうとう早い晩飯を食べた。 しかし、誰も来はしない。
またか、騙されたななどとぼやきながら、そろそろ帰ろうとしたとき、 上空にかすかな稲光がしたような気がした。 おや?と上空を見ていると、ふわふわと降りてくる卵形UFOがあった。 何や、今頃かいな、あのとき時間を教えてくれてたらいいのに。
卵形が上空に滞空停止したのを皮切りに、 次から次へと見知らぬ形のUFOが降りてきて、 たて縦列に間隔をいくぶんかとりつつ、滞空停止していった。
それはちょうど、美しく残った山の頂の直上に当たっていた。 こうして種々様々、あわせて21機のUFOが、 前後十分ほどかけて直径三十メートルくらいの 長円筒形の範囲に勢揃いした。
各UFOは小型で、せいぜい二〜三人乗りといったところだったが、 その有様は未知との遭遇のシャンデリアUFOの 着陸シーンに匹敵するほど壮観なものだった。 おそらく、ふもとの町からでも目撃できたに違いない。
定刻がきたのか、いきなり大空から 複合した「ブー」という大音響が発せられたかと思うと、 各UFOから光線束(光の管)が一斉に70坪程度の中庭をめざして、 決められた持ち場があるかのように照射してきたので、 私は大音響に驚き、光線束で居場所を失いのけぞって、 館の造作に思いっきりぶつかって倒れてしまった。
次の瞬間、一斉に光線束は消失した。 あっと驚いたことに中庭には、 元々なかったはずの小さなテーブルがたくさん置かれていて、 すでに得体の知れない何十人もの仮装した連中が、 座を占めてひしめいていた。
大あり、小あり、その出で立ちはまさにハロウィン。 ある者は立ち、あるいは椅子に座り、ある者はそのまま庭に座っていた。 私は突然のことに面食らい、またも失神してしまったのだった。
まどろみの中から目を覚ますと、 皆が私の方を見て一斉に拍手しているではないか。 これはどうしたことだ。
「ネアンさん。とても良かった。主催者の挨拶として相応しいものでした」
「グッドスピーチ!!」 様々な音程で、祝福の言葉が投げ掛けられていた。
「何か有ったのか・・・?」と言いたくなったが、 状況がこうなっているだけに気持ちを押し止め、 仕方なく成り行きに合わせることにした。
私が知らない間に、私自身、演説をひとつぶったに違いない。 誰か?たぶんスーツあたりが仕組んだのだろう。
そして、私はネアンと呼ばれたようだが、 これはこの館に私が名付けた愛称ではないのか。
「寧庵」すなわち、やすらぎの庵という意味だ。 それが私自身の名前にされている。 安らぎどころか、「ネアン、ネアン」とうるさくてたまらない。 自分の口で言ったとするなら、実に馬鹿げた成り行きだった。
「ネアン君、このドリンクを差し上げよう。これは喉に良い」と、 グロテスクな、イグアナに似た顔をした奴が、グラスを差し出した。 中には毒々しい緑色の液体が入っていた。
「こ、これは何でしょう」 「セイジュー・リカーだよ」 「は、はあ?青汁?(マズソー)」
そこにあのスーツAがやってきて言った。 「彼らの惑星における最高の飲み物なんだよ。大丈夫。 地球人の口にもあうし、害はない」
そう言われて、むげに断るわけにもいかず、グラスを取り少し飲んでみた。 何だ梅酒じゃないか。 やや口当たりは濃厚だが、あまり変わりなくうまいものだった。 ぐっと飲み干すと体中が暖かくなり、 萎えていた生気が甦ったような気がした。
「おお、結構いけるんだな。これで、貴殿も我々の仲間だ」
ま、待ってくれよ。こんなゲテモノ連中と仲間? 冗談じゃないよ。 まともなのはスーツたちと、向こうに見える美しい四人の女性ぐらいのものだ。 四人の女性にはどきっと胸の高鳴を感じたが、 イグアナと視線が合うたびに幻滅を繰り返した。
「私は、シリウス第四惑星サチュラスの外交官、 カレン・ダラス・イグアナトス・スベリウスという。 これからはカレンと呼んでくれたらいい」
カレン? とても可憐とは言えないが仕方ない。 返答をもどかしそうにしていた私に、 スーツAが気をきかせて話し掛けてきた。
「貴殿は私をどこかで見たことはないか。私はジョージ・アダムスキーなんだよ」
「えっ。そう言えばどこか似てますね」
「似ているも何も、その本人さ。 こちらは助手のキワメテハナス君(スーツB)だ。 さて、ここに集まる皆さんは、 それぞれに異なった惑星から三〜四人づつが招待されて来られている。 みな、それぞれの星における正装をしてきているんだよ。 みな気心知った仲間で、良い人たちだ。 このたびのオアシス開港を貴殿に感謝している。 これで、もっと頻繁に太陽系ルートにアクセスできるからね」
「はあ、そうでしたか」
「それは、この地球にとっても良いことだ。 我々が危険を冒してくる必要がなくなり、 我々にとって地球が重要な星になることによって、 見捨てておけない存在になるからね」
そしてスーツAは、この山の頂上を指差した。
「この形が何とも言えない良い形でね。 宇宙船のエネルギー補給には最高なんだよ。 オアシスという意味はそこにある」
この山、いびつな円錐形をしたどこにでもあるありふれた山だ。 ただ誰が付けたか知らないが、「平満山(ヒラミツヤマ)」といい、 小さいながらも霊気が宿ると噂されていた。
「単純に、この形であるだけでは駄目でね、 この辺りにこの程度の広場があって、 そこにこんなふうな館があることが必要なんだ。 5000年前には、こうした設備があちこちにあったんだよ」 「ほおー」
「それと、貴殿という存在も欠かせない」 「は?」
その時、突然右半身に痒みをもよおしてきて、痒みは次第に強まった。 何か右手から近付いているのか、と咄嗟にそちらを向いた。 すると、非常に淡い霧のような人型がすぐそこまで近付いてきており、 わたしはのけぞりかけたが、そのとき低い響きのかすれ声が聞こえてきた。
「わしは知っているぞ。おまえがほら吹きで不摂生なのを。 そんなことはこの際どうでもいい。 物事の道理を考えても考えても、わからんわからんと ぼやいているはずの者が、いっこうに考えを改めようとしないところに、 我々は興味を持ったのだ」
わけの分からない説教を聞いたようだったが、それよりも何だこれは? 全体が薄ぼんやりとしており、影法師のよう。顔はまるでのっぺらぼう。 きっと昔の人は、こうした生き物に遭遇して、 化物に出くわしたと思ったに違いない。 しかし、耐えられぬほど痒い。 痒みは内蔵から皮膚を超えて、何もない空間にまで広がっていた。
「わたしはロンバス4次元の外交官のロアーという。 地球の物理空間からすれば、亜空間の存在ということになろう。 このたびは良いものを作られたこと、代表し感謝申し・・・」
音量が次第に減衰して、明らかに体力と肺活量不足の 症状を呈しながら、声が途切れた。 人型のシルエットは、右手部分をナイナイして見せると、 すっと消えてしまった。すると痒みも引いていった。
カレンが言った。 「この空間に実体を結ぶためのエネルギーが枯渇したようだ。 彼は自分の空間に戻るか、それとも船に戻るかして チャージを受けねばならんだろうな。 最初にどうでもいいようなことを言わなければ、ちゃんと祝辞を言えたものを」
そのとき誰かが言った。 「おいおい、みなこの人に挨拶をしたくて待っているんだ。 向こうの方には、しびれを切らして飲んだくれている連中もいる。 正気な間に、自己紹介だけでもさせてやりなよ」
スーツAが言った。 「まったくその通りだ。では、私が一人一人を彼に紹介していこう」
「いやいや、わしらは子供じゃないぞ。一言ずつ彼と話を交わさせてくれ」
「わかった。そうしよう」
こうして、大小、醜美、派手地味など、約20の様々な宇宙人種、 総勢約60人の一人一人から、星と名前とコメントを聞き、 時には握手も交わしたのだった。そう、時には。 というのも、大きな3本指の手や、疣だらけの手と握手というのは、どうも。
星や名前は憶えておれそうになかったが、彼らの顔だけは印象深く、 突然どこかで出くわしたとしても、そう驚くことはもはやあるまい。
思うに、アメリカのハロウィンや、 日本の東北地方のなまはげの習俗などは、 突然の宇宙人との遭遇に際しても、 心の準備をさせておくための習慣だったのではないだろうか。 その昔、原住民と宇宙人はおそらく交流していたのだ。
さて、いくつかの人達とは、いささか印象深い会見となった。 今後いろいろと関わりを持ってくる連中なので話をしておこう。
変わった挨拶では、「俺はアルデバラン第8惑星から来たチャービルだ。 おい色男。おまえあんまり賢くないようだが、俺の星にきてみろ。 いっぺんに賢くなるぞ。 というのも、ノーミソ全部まとめて入れ替えちまうんだ。へへへ。 その気になったら、一声かけてくれ」 とか、「ドリンク飲みすぎて、窒素分を摂りすぎたから、ちょっと排泄するね」 と、青緑色の毒々しい液入りのグラスをちらつかせながら、 とてつもない爆発音のオナラをして驚かすやつ。 多くの連中は成り行きを知っていたらしく、耳をふさいでいた。
初めての者が通らねばならない洗礼らしい。 時折思い出されるえげつない光景であった。 宇宙には多様性がみなぎっているのだ。
しかし、美形の宇宙女性四人衆から 次々と挨拶を受けたときには、まったく参ってしまった。
「私はボントス星団第47惑星エーオースから来た 外交官のマスカットといいます。良いオアシスをありがとう」 と、私のほっぺにチューときた。 おいしそうな名前。残る三人も同様にするものだから、 私は喉が渇き、差し出されたドリンクを一気にやってしまった。
すると、体中が熱くなり、突然妙なところがどんどん膨張してきた。 「わ、わわ、つ、次のかた」
そう言った次のかたというのが、チャービルだった。 全体の爆笑が起こった。すかさず、マスカットが言う。 「ここを主に利用するのは飛行士たちで、おおよそは屈強な男よ」 ときたので、また爆笑が重なった。
そうした最中に、冷たい視線を感じた。 ふと見ると、三人の小人が無表情にこちらを見つめていた。 大きな黒いナスビ目顔は、まるで昆虫を思わせる。 私がうなづいてみせると、そのひとりが口を開いた。
「私はグリー星の第6723、ウーシャークラクルカーといいます」 続いて、「私はグリー星第5378、XXX・・・」 「私はグリー星第8568、・・・」と、依然無表情で同じパターンの挨拶をした。 そう。これぞ地球上のあちこちで目撃されているという宇宙人種であった。
「あなた方は、地球上でよく目撃されていますね」と聞くと、 「お答えできません」と言う。 失礼なことを聞いたかと戸惑ったが、 「今回、貴殿に友好を伝えるために来ました」 と付け足してくれたので安心した。
そこにスーツAがコメントした。 「彼らは必要以上のことは、しゃべらないんだ」と。 いずれも異国情緒あふれる会見であった。
そんなわけだから、自己紹介も終わり頃に、 日本人っぽい人物が現われたのには、逆に驚いてしまった。
「やあ、どうも」と、その人物はやってきた。 その途中、エーオースの女性軍に、「おや、遅かったですね」 とか「しばらくです」と、声をかけられていたので、 かなり広い面識を持つ人らしかった。 若干嫉妬する私。(ウン、バカーン)
私が、「あれ、さっきはこの中に居られなかったですね」と訊ねると、 「今し方来たところです」と言われる。
「地球人のかたですか? お名前は」
「ムララムと言います。遅れて着いたため、駐機スペースがなかったもので、 いったん帰って一人乗りの小型機に乗り換えてきました」
「あなたはまるで日本人みたいですが」 そう、日本人そっくりに加え、どこか刑事コロンボに似て、 そそっかしそうでモッサリした感じが印象的である。
「そうです。日本で生まれ、育っています。でも、いちおう母星がありまして」
そこでチャービルが無造作に口を挟んだ。 「ムララムさんは、ここに来ている半数の者がお世話になっている 地球の水先案内といってもよい人だ。 我々も情報提供したりしている。だが、彼も忙しいので、 我々とはせいぜいお遊び程度のことしかできんのだ」
「ほお」
「まあ、そういうことで、また日本のどこかで会うかもしれませんが、 その時はよろしく」ということで、この場は収まったのだった。
その後、みなそれぞれに愛用の飲み物や食物を持ってきて、 どんちゃん騒ぎとなった。 足りなくなれば、宇宙船に戻って取ってくるといったことが繰り返された。 そのつど、どこかの宇宙船と中庭が色とりどりの光線束で結ばれ、 まるで中庭はスポットライトで随時照らしだされる 安物のミュージカルの舞台のようだった。
しかし、毎度こんな有様だとすれば、たまったものではない。 聞くと、スーツAの言うには、「大丈夫。 今回は祝賀会ということでこうなったが、普段は騒ぐことはない。 それに、1隻も来ないときのほうが多し、 来てもせいぜい2、3隻というところ。 また、来る予定の日は、あらかじめ知らされる。 また、貴殿がいなくとも、旅行者だけで大人しく利用するし、 利用規定も、迷惑にならない内容で、ほらこの通り」 と、わざわざ日本語に直した資料を手渡してくれた。 ほんとかね。この話。・・・??
夜が明ける頃、みなは三々五々帰っていった。 立つ鳥あとを濁さずの喩どおり、あとにはチリひとつ残っていなかった。 それもそのはずで、来たときとは逆に各船が光線束で 持ち場にあったものをバキュームよろしく吸い上げて行ってしまったのだ。
私は、あのスタミナドリンクが残されていないかどうか、 その辺を調べたが、あるはずもなかった。 ならば今度は厄介な荒ゴミでも出しとこう。
私は眠っていないので、その日は仕事にならないと思い、 病気の延長を理由にまた休暇をとったが、 普段よりかえってエネルギッシュに過ごせたのだった。
こうして、私の世にも珍しく不思議な二重生活が始まったのだ。
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